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野町和嘉氏 展覧会「天空の渚」


東川賞受賞作家 展覧会のお知らせ。

Gallery 916にて、野町和嘉氏の展覧会が開催中です。


天空の渚

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以下リンクより

このたび Gallery 916では、キヤノンEOS5Dシリーズ10周年 特別企画展として、野町和嘉「天空の渚」展を開催いたします。

本展では、2015年初頭に野町氏が訪れたメキシコ、ボリビア、チリ、アルゼンチンの写真を大判プリントで約50点、併設の916 smallではガンジス〜チベットを巡った写真約30点を展覧いたします。

特別に撮影許可が得られたサンタマリア・トナンツィントラ教会、雨期のウユニ塩原、標高4000メートルの原野に林立する砂の柱、 生きた氷河と呼ばれるアルゼンチンのペリト・モレノ氷河など。日本から1万数千キロ離れた異国の壮大な風景を、是非ともこの機会にご体験ください。
皆様のご来廊を心よりお待ちしております。





振幅の大きな「振り子」が描き出す
遠く離れた風景
タカザワケンジ(写真評論家)


写真が私たちに与えてくれた楽しみの一つに、見たことのない世界との出合いがある。遠く離れた場所にどんな風景が広がっているのか、そこでどのような暮らしが営まれているかを写真は正確に描写し、私たちに届けてくれる。写真が発明された西洋では早くから自分たちの文明の外側にある風景、文物を写真で楽しむようになった。たとえば、フランスの作家、マクシム・デュ・カンは、1849年に友人のフローベルと約1年間にわたって中近東を旅行し、約2000枚の写真を撮影している。帰国後発表した『エジプト・ヌビア・パレスチナ・シリア』という写真集は大きな反響を呼んだという(※①)。写真に写る世界に私たちは魅了され、生きている間に訪れることがないかもしれない場所に思いを馳せてきた。写真の発明以来、私たちは「見る」ことで世界を知ろうとしてきたのである。

野町和嘉も私たちの視覚経験の拡張に貢献してきた写真家の一人である。スケールの大きな自然風景、何千年にもわたって守られてきた巨大な宗教空間、エキゾチックな生活習俗。驚嘆すべきイメージの数々が私たちの眼の中に運び込まれてきた。野町の写真作品の数々は、どこまでも遠くへと移動できる乗りものをイメージさせる。

野町和嘉が「遠く」へ向かうことになった転機がサハラ砂漠との出合いだった。野町がサハラへ向かったのはフリーカメラマンになって一年ほどだった25歳のとき。友人6人とスイス、オーストリアでスキーを楽しんだ帰り、思い立って友人と2人でサハラへ向かうことにした。サハラに魅せられた野町はそれから75年まで5回、通算13カ月にわたる撮影を行っている(※②)。撮影した写真は各国のメジャー誌に掲載されたのち、写真集『SAHARA』がイタリア(1977年)でまず出版され、翌年に日本版を含む5カ国版というかたちで発表された。『SAHARA』は国内外で高く評価され、野町の写真家としての方向性を決定づけた。

野町は『SAHARA』で、のちにつながる二つのテーマを手に入れている。一つは辺境の地。文明から離れた場所にある自然の姿である。もう一つはその地で暮らす人々のポートレイトと生活文化である。前者は野町がメディアの取材が及ばない極限の世界へ向かうきっかけになり、後者は砂漠の宗教といわれるイスラム教、キリスト教、さらにはヒンドゥー、チベット仏教など、世界的な宗教への取材へとつながっていった。なかでもメッカ巡礼の撮影は歴史上、初めて行ったものになった。

野町が取材、撮影を行ってきた40年余りはグラフジャーナリズムが発達し、大衆が見知らぬ世界を「見尽くす」欲望を肥大させていった時代でもある。工業化、機械化された現代文明は欲望のままに物質至上主義を推し進めていった。その結果として、いわゆる先進国の生活様式が大きく変わっていったことは周知の通りである。とりわけ、アジアから初めて先進国の仲間入りをしたこの国の変化はドラスティックだった。田中角栄による『日本列島改造論』が発表されたのが、奇しくも野町がサハラ砂漠を訪れた1972年であり、高度経済成長を経て経済的に安定したことで、消費生活を楽しむ余裕が生まれた。野町はその時代にサハラへ長期にわたる取材を何度も行っている。あえてモノがなく、過酷な生活が強いられる取材に飛び込んでいったことになる。それはなぜなのか。

野町は自身の写真家としてのありようを「振り子」にたとえている。「一つの場所に長期間滞在して写真を撮って、また日本に戻ってくる。その繰り返しです。振幅のおおきい振り子のように感じていました」(※③)

『SAHARA』の場合で言えば、振り子の一方が砂漠にあり、もう一方はこの国にあった。欧米の写真家たちと野町の写真に違いがあるとすれば、ヨーロッパからは広大な死の空間と考えられていたサハラ砂漠が、野町にとってはそう見えなかったということだろう。サハラに長期滞在した野町は、伝統的な暮らしを続ける遊牧民にとって、砂漠もまた母なる大地であることに着目している。その視点は、野町が知らず知らずのうちに身につけていた自然への崇敬の念と、自然と共生する知恵と重なっていたのかもしれない。

過酷な撮影を行う写真家にとって、信頼できる機材が欠かせない。野町は『SAHARA』の頃から35ミリ一眼レフカメラ、6×7、4×5などの機材を使っているが、写真集のあとがきでしばしば写真が「ストレート」であると断っている(※④)。カラーフィルターなどのフィルターワークは使わず、余分な光線をカットするPLフィルターのみを使っていると書き記しているのである。デジタル一眼レフを使い始めたのは、2005年に発売されたキヤノンEOS 5Dからで、未明のガンジス川での沐浴を確実に描写できるその高感度性能に驚嘆し、以後デジタル性能の進化とともに野町の写真表現領域も広がっていった。しかし、イメージを「つくる」のではなく、あくまで「撮る」ことに制限し、そのうえで、見る者を驚嘆させるという姿勢は変わらない。そのためには徹底したリサーチと、長期にわたる撮影が必要になる。

今回の『天空の渚』は、2015年初頭、メキシコ、ボリビア、チリ、アルゼンチンを約50日間にわたって旅し、撮影した作品である。カメラは約5060万画素という超高画素カメラ、キヤノンEOS 5Ds。テーマはこの超高画素カメラで、これまで野町が取り組んできた極限高地のシリーズに連なる作品を撮影することである。撮影はいつものように単独行で、ガイドブックやインターネットでは見つからない風景を求めて奥地へと進んでいったという。農家に泊めてもらってようやく撮影した風景写真もあり、これまで写真家が撮影したことがない風景を求めるという点でも、これまでと同じだ。

現代は写真と映像にあふれた時代である。どのような場所であっても、ネットを検索すればそのイメージを眼にできるような気がしている。しかし、本当にそうだろうか? たしかに写真は誰にでも撮れる身近なツールになり、SNSに写真があふれている。だが一方で、そのイメージがどのようにして撮影され、どれくらい現実と距離があるかが曖昧なことが多い。写真が真を写すものではないことは、いまや常識と言っていいだろう。

しかし、ドキュメンタリー(記録)を第一義に考える写真家にとっては、写真がどのように受け取られるかにまで責任を持つことが必要とされる。たとえば、かつてロバート・キャパ、カルティエ=ブレッソンらが写真家によるフォト・エージェンシー「マグナム」を立ち上げた理由の一つが、トリミングとキャプションを写真家自身が決定するためだった。同様に、野町にとっても写真が「ストレート」であることは重要なことに違いない。そして、事実性、記録性の重視は、高解像度による写真の可能性の一端を開くものでもあるだろう。

『SAHARA』から出発した野町は、見たことのない風景、知られていない光景を探すイメージ・ハンターとしての側面を持っている。『天空の渚』の場合は、人間が住まない極限の高地であり、一度は繁栄したものの時代とともに忘れ去られ、静かに風化していくゴーストタウンであり、パナマ運河の開通で歴史的役割を終えたマゼラン海峡に捨て置かれた廃船である。写真からは人間が生存できない自然環境の厳しさと、時間が堆積した風景の壮絶な美しさが感じ取れる。

生まれ育った国と、遠く離れた場所との間を大きく振れてきた野町の「振り子」は、現代を生きる私たちの引き裂かれた自我とも重なる。自然か人工か。伝統か刷新か。ローカリズムかグローバリズムか。野町の作品を前に、しばし内なる「振り子」に向かい合ってみてほしい。

①『マクシム・デュ・カン展 -150年目の旅-』図録(三鷹市美術ギャラリー、2001年)
② 野町和嘉『SAHARA 空と砂の間で』(平凡社、1978年)
③『天空の渚』展についてのインタビュー(2015年)
④ 野町和嘉『SINAI・聖書の旅 モーセの足跡を追って』(平凡社、1979年)




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野町和嘉「天空の渚」
会期: 2016年1月15日(金)~2月14日(日)
場所: Gallery 916 東京都港区海岸1-14-24 鈴江第3ビル6F
平日 11~20時、土日・祝日11~18時半 ※最終日のみ17時まで
休廊:月曜日(祝日を除く)
入場料:無料
主催:キヤノンマーケティングジャパン株式会社

|野町和嘉ギャラリートーク|
2016年1月17日(日) 14時〜
2016年1月31日(日) 14時~

リンク:http://gallery916.com/exhibition/theshoreofthefirmament/
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by higashikawa_blog | 2016-01-16 14:34 | 受賞作家関連
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