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川内倫子氏 展覧会「the rain of blessing」


東川賞受賞作家 展覧会のお知らせ。

gallery916にて、川内倫子氏の展覧会が開催中です。


the rain of blessing

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©Rinko Kawauchi


以下リンクより

見知らぬ人の記憶を媒介する写真
タカザワケンジ(写真評論家)

昨年、川内倫子はオーストリアの美術館、クンスト・ハウス・ウィーンで展覧会を開いた。ウェブの展覧会情報ページは彼女について「現代写真におけるもっとも革新的な作家の一人」と紹介している。

彼女のキャリアを振り返れば、この説明が大げさなものでないことがわかる。2001年に3冊の写真集(『うたたね』『花火』『花子』)を同時に発表して以来、国内外のギャラリー、美術館で作品を発表。作品集20冊を刊行している。世界的に見ても影響力の強い写真家の一人だ。では、彼女の作品の「革新」性とは一体どんなものなのだろうか。

今回の個展は彼女の作家性を知るうえで格好の展覧会である。東京で開かれる規模の大きな展覧会としては2012年の「照度 あめつち 影を見る」(東京都写真美術館)に次ぐものであり、過去の作品から最新作まで四つのシリーズで構成されている。

会場に入ってすぐ。水の中の世界へと見る者を誘う作品から展覧会は始まる。イントロダクションともいえるこのシリーズは、2004年発行の作品集『the eyes, the ears,』に収録されている。私たちにとって水はなくてはならないものであり、ごく身近に存在する世界だが、光も色も陸上とは違う。川内の作品の特徴の一つは、ふだんは当たり前すぎて意識することもないことを、写真にすることによって浮上させ、発見させるところにある。

水の流れはやがて川となり、その周囲にはさまざまな植物や生き物が集まり、人が暮らす集落ができる。大小さまざまの川はいまも変わらず人間の暮らしを支えている。そのため、多くの人が川についての思い出を持ち、ときには原風景の一部となっている。二つ目のシリーズ「川が私を受け入れてくれた」は、今年1月に熊本現代美術館で開かれた同名の展覧会で発表された。熊本で撮影した作品を展示したいという美術館の要望に応えたもので、その地に暮らす人々の記憶のなかにある熊本の景色を撮影することを川内が提案したという。方法としては「思い出の場所・地名」と「わたしの熊本の思い出」という400字程度の文章を募集し、撮影場所を選ぶというものだった。

しかし、川内は応募された思い出の場所を説明するために撮影したわけではない。では、どのような意識で撮影が行われたのか。そのヒントは今回も展示されているテキストにある。詩篇のように見えるその文章は、応募された文章のなかからそれぞれ一、二文を抜き出し、川内が構成したものだ。言葉を追っていくと、一人の言葉ではなく、さまざまな「声」が響き合い、反響が広がっていくように感じられる。写真も同じように、見知らぬ人々の心のなかにある記憶を頼りに、川内自身の意識下にある何かを反応させることで、写真にイメージが定着されていったのだろう。

こうした作品づくりのプロセスも興味深いが、さらに重要なのは、川内の作品が作品を見る私たち一人ひとりの記憶と接触してくる力を持っていることだ。この作品に限らないが、川内の写真は生まれも育ちも生きている場所も、もしかすると文化や時代を超えて、「記憶」を媒介する可能性を示唆している。

こうした川内作品の持つ「力」から連想するのはスイスの心理学者、ユングが唱えた「集合的無意識」という概念である。ユングは心理学に加え、人類の神話、伝説を研究することで、人類に共通する「元型」を見いだし、人間の深層心理が集合的であることを示した。ユングの説を踏まえれば、「集合的無意識」に触れる川内の作品が、国境を越えて人気を集める理由の一端が説明できる。

三つ目の作品、「太陽を探して」は、冒頭で紹介したクンスト・ハウス・ウィーンでの展覧会のために、オーストリアで撮影された作品だ。題材の一つはアルプスの氷河である。水は蒸発して雲になり、雨になる。止めることのできない時の流れや、繰り返される輪廻といった、この世界の理の象徴でもあるが、氷河は流れ続ける水を凝固させ時を止める。そのほかに光のささない地底で時間をかけて水が削った岩がさまざまなかたちをとる鍾乳洞、地下から掘り出される金から、コインをつくりだす鋳造所で撮影されている。川内が直感的に選んだこれらの題材はとりとめなく見えるが、「太陽を探して」というタイトルが三つに架かる橋になる。川内は金について調べるうち、占星術において金が太陽を意味す

太陽は光の源であり、写真はもちろんのこと、「見る」ことを可能にしている偉大な存在でもある。川内の作品はこうした根源的ともいえる大きな存在に、手をかざして陽光のぬくもりを感じるように無造作に触れている。

展覧会の最後を飾るのが「The rain of blessing」である。4つのシリーズで構成されるこの展覧会の「表題作」に当たる。

このシリーズもまた、「太陽を探して」のように三つの柱を持っている。一つは、出雲大社。60年に一度の式年遷宮の撮影に始まり、八百万の神々を迎える神迎祭などを取材している。二つ目は鳥たちの群れを撮影したもので、2010年のブライトン・フォト・ビエンナーレでのコミッションワーク以来、撮影を続けているもの。冬の一時期、夕方の決まった時間に鳥が集合し、集団で旋回を繰り返すという現象が描かれる。三つ目が中国・河北省の「打樹花」。鉄くずを高温で液状化させ、壁にぶつけることで生まれる火花である。神と人間とが接近する祭事、集合的無意識のメタファーのようにも見える鳥たちの舞、祝祭と労働という相反する二つの要素を連想させる火花。現在制作中の写真集からの最新作だ。

川内の作品を見て、言葉にしようとすることは、ここではないどこかへと旅してきたような心地よい充実感を覚える。見て、考える。その繰り返しが、私たちの意識をいまいるこの場所から遠くへと連れて行くからだと思う。

写真を見るとき、私たちは記憶のデータベースと想像力を起動させている。記憶に照らし、想像力を発揮し、心が動かされたとき、写真は見た人の個人的な体験の一部になる。川内倫子の革新性の一つは、写真をつかったこのような記憶の共有、言い換えれば、集合的無意識の存在を顕在化させたことだ。川内の作品が日本の写真という枠を超えて人気を集める理由はまさにその点にある。

こうした写真作品の新しいありかたは、川内が抱えているテーマの普遍性と深く関わっている。彼女が写真を使って触れようとしている無意識は、私たちが「生きている」「この時をすごしている」という絶対的な事実にある。川内のすべての作品に共通するのは「生命」と「時間」であり、生きものすべてに平等に与えられる時の流れを見つめている視点は揺るがない。

「The rain of blessing」。写真を見ながら、この祝福の雨、という言葉が持つ歓喜と儚さをかみしめてみてほしい。光に溢れ、祝福された生命の誕生は、止めることのできない時の流れの始まりでもある。彼女の作品は私たちに万物に共通の真理をそっと告げている。



<作家の言葉>

水の中は外界の音を通さず、静かな時間に身を預けて日常の瑣末なことから離れることができる。ただ黙々と身体を動かし続け、時々息継ぎをし、ターンを繰り返し、時間になったら水から出る。くぐもった音がクリアになり、身体は少し気怠く、重力のある現実世界に帰ってくる。

幼少からぜんそく持ちだった自分は、医者の勧めで7歳の頃から小学校を卒業するまでスイミングスクールへ通うようになった。当初は好きで通っていたわけではなく、その時間が来ると憂鬱だった。慣れてくる頃には泳ぎ終わるとほどよい疲れが心地よく感じるようになり、だんだん泳ぎが上達すると達成感も得られるようになった。いつのまにか泳ぐことが好きになっていた。だから東京で暮らし始めてフリーランスになった頃、プールで泳ぐ習慣ができたのは自然ななりゆきだった。東京にひとり暮らしで、先も見えないフリーランスの生活はとても不安定で、プール通いは気持ちを落ち着けるにはちょうどよかったのだろう、といまになって思う。

写真を撮影する行為はそれと少し似ている。ある場所に行き、なにかを見つけて集中し、息を止めて、あるいはひそめて、シャッターを押す。極度の集中状態が切れると途端に周囲の音が戻ってくる。まるでプールからあがったときのように。

そんなことを繰り返して作品が出来るのだが、いつも出来上がった作品を見るといろいろな気づきがある。水中から手探りで掴んできたものが地上で太陽に照らされ、光を反射して初めてその姿を確認できるように。それらはいま自分がいる世界を確認し、つぎに進むべき指針となるのだ。



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会期:2016年5月20日(金)〜2016年9月25日(日)
時間:11:00〜20:00
   土日祝日:11:00~18:30
休廊: 月曜(祝日を除く)
観覧料:【一般】800円【大学生・シニア(60歳以上)】500円【高校生】300円【中学生以下】無料
会場:gallery916
   〒 105-0022 東京都 港区 海岸1-14-24 鈴江第3ビル6F
リンク:http://gallery916.com/exhibition/therainofblessing/
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by higashikawa_blog | 2016-06-03 12:49 | 受賞作家関連
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