2009年新人作家賞受賞 石川直樹展覧会情報
「ARCHIPELAGO」

(c)Naoki Ishikawa

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-ウェブサイトより-
島の連なりとしての世界へ
石川 直樹(写真家)
2009年10月3日、写真家の平敷兼七さんが肺炎をこじらせて亡くなった。
平敷は、1948年に今帰仁村に生まれ、生地である沖縄を半世紀にわたって撮り続けていた。ぼくが彼と初めて出会ったのは、数年前に那覇で開かれた写真関係者の集まりの席だった。どんなことでも正面から受け止めてくれる人柄に惹かれて、以後、沖縄に行くたびに彼の所を訪ねるようになった。
平敷は娼婦や労働者など市井に生きる無名の人々を、敬意と共感のまなざしでまっすぐに撮る。深い関係性の中から生まれる無数のモノクロ写真は、彼にしか撮れない戦後の沖縄における希有な記録そのものだった。
ぼくは世界を知るためには、自分の目で世界を見て回る必要があると思っていた。しかし、平敷とつきあううちにその考えはあっけなく崩れ落ちていった。彼は沖縄しか撮らない。なのに、彼は人間が生きるこの世界のことを深く知り、言葉以前の世界と明確に向き合っている。部分から全体を、島から世界を見つめ返す精神の軌跡は、これらの写真のなかに確固として存在している。
現在、準備中の写真集『ARCHIPELAGO』には、那覇に程近い平敷の自宅で撮影させてもらったポートレートが入っている。すでにプリントは印刷所に入稿してあり、あとは印刷を待つのみという状態だった。本が出来上がったら真っ先に平敷に届けようと思っていた矢先、彼の訃報が届いた。
『ARCHIPELAGO』は、日本の南北に点在する島々、すなわち、南はトカラ列島、奄美、沖縄、宮古、八重山、台湾、北は北海道やその周辺の離島、サハリン島、クイーンシャーロット島などで撮影した10年分の写真によって構成される。国境によって区切られた地図を自明のものとせず、島の連なりとして世界をとらえ直してみるという自分なりの試みでもある。
中京大学Cスクエアでは、そうしたシリーズのなかでも南方で撮影した写真を展示する。ぼくは平敷にこの展覧会をみてもらいたかった。小さな島々から大きな世界を見つめ、一つの中央ではなく無数の中心へと向かうという姿勢は、すべて彼から学んだものである。平敷兼七氏に最大の敬意を表して、ぼくはこの展覧会を開催したい。
会 期:2009年10月19日(月)− 11月14日(土)
時 間:午前9時−午後5時 入場無料
休 館:日曜・祝日/但し、11月1日(日)は開館
会 場:アートギャラリー C・スクエア
電 話:052−835−5669