飯沢耕太郎氏 レビュー「第28回東川賞受賞作家作品展」
東川町国際写真フェスティバル2012「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション」でレビュアーをしていただきました飯沢耕太郎氏が、artscapeに今年のフェスについてのレビューを書いてくださいました!!!
以下artscapeより
第28回東川賞受賞作家作品展
北海道上川郡東川町は1985年に「写真の町」を宣言し、毎年夏に東川町国際写真フェスティバル(フォト・フェスタ)を開催し始めた。今年はもう28回目ということで、僕は1980年代末からその変遷を見ているのでとても感慨深いものがある。最初の頃は町民との一体感がまったくなく、会場は閑散としていた。だが当地の夏祭りと同時期に開催されるようになり、全国の高校写真部の精鋭が集結する「写真甲子園」も話題を集めるようになって、近年は大いに盛り上がりを見せるようになった。写真の恒例行事として、完全に定着したのは素晴らしいことだと思う。
今年は「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション」のレビュアーのひとりとして招聘されたのだが、東川町文化ギャラリーで開催されていた「第28回東川賞受賞作家作品展」がかなり面白かった。フォト・フェスタの目玉でもある東川賞の今年の受賞者は、海外作家賞がアリフ・アシュジュ(トルコ)、国内作家賞が松江泰治、新人作家賞が志賀理江子、北海道ゆかりの写真家に与えられる特別作家賞が宇井眞紀子、地域に根ざした活動を長く続ける写真家を対象にした飛騨野数右衛門賞が南良和だった。この5人の組み合わせは、ジャンルも年齢も経歴もまったくバラバラなのだが、逆にそれが写真という表現メディアの広がりと可能性をさし示していて興味深いものだったのだ。
会場の入口から、南が1950年代以来撮影し続けている埼玉県秩父の記録写真、アシュジュのイスタンブールを撮影したパノラマ写真、松江の「地名の収集」として続けられている巨視的な風景作品、志賀の「Lily」「Canary」そして新作の「螺旋海岸」のシリーズ、宇井のアイヌの女性運動家、アシリ・レラの活動の記録が並ぶ。そのつながり具合が絶妙で、あたかも写真という生きものの体内を巡っているようなスリリングな視覚的体験を愉しむことができた。特に11月にせんだいメディアテークで本格的に展示されるという志賀の「螺旋海岸」は、現在の日本の写真表現を大きく左右していく可能性を秘めた重要な作品になっていくだろう。さまざまな貴重な出会いを誘発する場としてのフォト・フェスタの役割は、今後より大きくなっていくのではないかと思う。
2012/07/29(日)(飯沢耕太郎)
リンク:http://artscape.jp/report/review/author/1197769_1838.html