オノデラユキ氏 展覧会「窓という装置をめぐって- The Window as Device」
版画作品「古着のポートレート」は、1994 年に制作 されたオノデラの初期の代表作「古着のポートレート」 をフォトグラビュールによって新たに表現した作品 です。光を利用して版を刻むフォトグラビュールは、 光の画としての写真表現と親和性が高い銅版画の技 法の一つです。全工程が手作業から成り、明暗を無段 階に階調することができるので、写真フィルムよりも さらに深く表現可能な特徴をもっているとも言われ ます。
オノデラはこのフォトグラビュールを用いて制作し た「古着のポートレート」に、写真による硬質な描写 力とは違う方向性を見いだし、手応えのあるマチエー ルを伴った絵画としての強度と存在感を浮き彫りに しました。また、精妙な手仕事のニュアンスの形跡を留めるフォトグラビュールこそが、デジタルプリントがスタンダード化する現代において、極めて貴重かつ魅力的な 技法であることを物語っています。光沢感のある上質なブルーグレーの雁皮紙に二色のインクで刷られることによっ て、独特の温かく繊細なマチエールが生まれ、作品の内に秘められた絵画的内容がより表に出てくるような仕上がり を是非ご堪能ください。
「古着のポートレート」に至る経路上にあり第 1 回〈写真新世紀〉(1991 年)の受賞作品でもある シリーズ「君が走っているのだ。僕はダンボの耳で 待つ」(1991 年)、古着の袖から空を垣間見た「From the Sleeve」(1993 年)、美しい青い色調の「窓とコ ップ/Window and Glass」(1993 年)、古着のポートレートと同じモンマルトルのアパルトマンの窓辺で撮影されたシリーズ「鳥」(1994 年)、オノデラユキとアキルミ のユニットプロジェクト Les KiKi による永遠のパリを描くシリーズ「レ・キキのパリ/Les KiKi de Paris」(1996 年)、 東京郊外の家々を浮遊する光の箱のように捉えた作品シリーズ「窓の外を見よ」(2000 年)、中心に明るい大きな窓が ある部屋に世界各地の地名を標識のオブジェが配置されたシリーズ「世界は小さくない-1826」(2012 年)という7つ のシリーズから、今回は《窓》に関わる作品としてオノデラにより編集されることで、当展示に出品される写真はシ リーズという枠組みから解放され、新たな側面を見出す可能性に満ちた内容にもなります。そして《窓》はそのとき、 部屋の窓、窓辺、カメラという箱の窓、あるいは写真のフレーム、もしくは写真という枠組みそのものであるのかも しれません。制作の現場でもある版画工房のギャラリースペースだからこそ実現した試作的な展示内容を、オノデラ の写真作品に内在する多様な視覚表現と思考の痕跡を辿りながら、そのオノデラの窓からも飛び出し想像の翼を羽ば たかせるようにお楽しみいただけましたら幸いです。
本展の版画作品と写真作品を通して垣間見ることができるオノデラユキの多彩な世界観を是非ご高覧ください。
会場 ギャラリーキドプレス 〒101-0021 東京都 千代田区 外神田 6-11-14 3331 Arts Chiyoda 204
会期 2018 年 9 月 7 日(金)~10 月 14 日(日)
開廊時間 12:00~19:00 *最終日は 17:00 まで
閉廊日 月・火・祝祭日休み
作家を囲んでのオープニングレセプション 2018 年 9 月 7 日(金) 18:00 ~ 20:00
作家によるギャラリートーク 2018 年 9 月 7 日(金) 16:30 ~ 17:30