片岡俊さん 展覧会「Life Works」
土を作り、種を蒔き、水をやり、実った果実を収穫する。それが祖父の目的であり、庭との関わりだった。しかし、晩年を迎えた祖父の庭には、目的であった植物だけではなく、雑草や成長を過ぎた緑が豊富に茂っている。少しの隙間を見れば種子が芽吹く、野性的で濃密な緑。それは祖父の意図から外れた不可抗力の緑だった。
「もう一ヶ月は庭には出ていない」「収穫時期はとっくに過ぎた」そう呟く祖父がいる。その家に移り住んでから50年以上の年月が過ぎていた。
時の流れとともに、人と植物の生命力の重なりは逆転し、祖父の手は、庭ひとつ、鉢ひとつをとっても行き届くことが難しくなっていたのだ。祖父の今が、その緑の豊かさを生み出していた。それは、この場所の緑を育てる力の源でもあった。
場所の記録は、一人の人の記録へと変化していた。生命力の象徴である緑は絶えず私の心を掴んでやまないが、この緑を見ることは同時に祖父の今を見ているのだと、その色彩と密度を持って教えてくれている。(片岡 俊)
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2019年5月23日(木) 〜 2019年6月 5日(水)
日曜休館