奈良原一高氏 展覧会「人間の土地/王国 Domains」

美術史を専攻する学生時代に池田満寿夫、靉嘔(あいおう)らと活動していた奈良原一高は、1959年に川田喜久治、東松照明、細江英公らとともに写真のセルフ・エージェンシー「VIVO」を設立し、その後、パリやニューヨークを拠点に世界各地で撮影を続け、造形的な作品が国内外で高い評価を受けています。本展では、1950年代に新しい写真表現として話題をさらった初個展「人間の土地」と、第2回個展「王国」の作品をご覧いただきます。
1956年に発表した「人間の土地」は、鹿児島の桜島噴火で埋没した黒神村を写した〈火の山の麓〉と、長崎の人工の炭鉱島である端島(軍艦島)を写した〈緑なき島〉の2部作で、自然対人間、社会機構対人間を追うものでした。1958年に発表の「王国」は、和歌山県の婦人刑務所を写した〈壁の中〉と、北海道のトラピスト修道院を写した〈沈黙の園〉の2部作で、閉ざされた壁の中の生活を追うことで現代に生きる不安とむなしさを見つめています。2部作形式で発表された2つのシリーズは、外的、内的要因によって隔絶された場に生きる人々をとらえたパーソナル・ドキュメントで、本展では1部毎17点、合計68点(すべてモノクロ)を展示します。
若き奈良原は、「自分の遭遇した世界、そのコンセプトと写真との出会いを見せたいだけ」(『奈良原一高 昭和写真・全仕事9』朝日新聞社、1983年)で「人間の土地」を発表し、写真界の注目を集めました。作品を見た木村伊兵衛ら重鎮の感想放談に対して若き写真評論家の福島辰夫が「発言に責任を持て」と迫るなど、写真表現の転換を象徴する作品であり、今日も多くの人の心をとらえる不朽の名作です。