奥山淳志氏 展覧会「光のゆくさき」
雪の降る土地に暮らすようになって、早いもので二十年が過ぎた。雪のない土地で育ったせいだろうか。ずっと、雪は白だと思っていた。雪は真っ白いものだと。でも、実際に雪とともに冬を過ごすようになった今では、雪は白ではないという感覚の方がよほど強い。雪、それ自体には色はなく、光を映しているだけだということに気づいたのだろう。いや、実際は光を映すのではない、吸い込むと表すほうが近い。闇と見紛うような弱々しい光でさえも、雪はそっと深呼吸して取り込んでいく。そして、雪は変わりゆく。光の様相をまとい、生まれ変わっていく。
少し昔のことだけれど、雪を求める旅を続けていたことがあった。雪の変わりゆく姿を求めて、雪の降る土地を巡った。その旅は、一緒に旅をしていた黒い犬が死んでしまったことで終わるともなしに終わってしまったけれど、今、あの旅を思い起こすことで立ち現れてくるのは、雪の向こうに何かを探し求めていたという、かたちなき、それでいて、忘れがたい感覚だ。
知らず知らずのうちに何かを求めてしまう。この心の働きによって人は新しい世界に出会い、大切な気づきを得る。きっと、求め、欲することで、僕たちは生きていくことの軌道の上を走り続けることができるのだろう。
雪に何かを求める旅は僕と黒い犬を遠くへと運び、いつしか、僕たちは光のゆくさきを追いかけるようになっていた。次第に大きく強くなっていく光の先に、あの頃の僕が求めていた何かを見つけたのだと思う。
あの旅から遠く離れてしまったからだろうか。光のゆくさきで見つけたはずの何かを今は思い出すことができない。
光の伝記を読むようなあの日々が、ただ、眩しいだけだ。
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会期:2020.11.20 fri→26 thu 13:00〜18:00
会場:ギャラリー上り屋敷 東京都豊島区池袋2丁目32-6