野村恵子氏 個展「Moon on the Water」
このたび2022年3月10日(木)から4月3日(日)まで、写真家・野村恵子の新作個展「Moon on the Water」をコミュニケーションギャラリーふげん社にて開催いたします。
野村恵子は、兵庫県神戸市に生まれ、同志社女子大学英文科中退、大阪ビジュアルアーツ専門学校を卒業後、渡米し、LA, Santa Feにて写真を学びます。1999年に沖縄をテーマにした初の写真集「DEEP SOUTH」(リトルモア)以降、女性のポートレートや、街、空、海、山などの風景を主な被写体に、自らの感覚や記憶や感情を刻みつけるように撮影した、エモーショナルな表現が高く評価されてきました。2019年には、信州の小谷村を舞台に、命の連環をテーマに撮影した写真集「0tari-Pristine Peaks 山霊の庭」が林忠彦写真賞を受賞しています。
本展では、近年、日常で撮影された、新作約40点を展示いたします。野村は、2020年11月、東京から沖縄に移住しました。コントラストの強い光線と、猥雑とも言えるビビッドな色彩に囲まれ、生と死を色濃く感じさせる沖縄という土地は、自身の母方のルーツであり、99年の「DEEP SOUTH」以来長年撮り続けている、野村にとっても特別な土地です。
コロナ禍で移動が制限される中、沖縄という土地に抱かれながら生活と制作を続ける野村は、何を見つめ、考えたのか。野村恵子の現在をご覧いただければ幸いです。
■「Moon on the Water」をめぐって
野村恵子の個展のタイトルは、「Moon on the Water」である。野村にはすでに何冊かの写真集があるが、1999年に出版された1997年から99年にかけて沖縄で撮影した写真集「DEEP SOUTH」からの流れにこの作品は位置付けられる。
とは言え、今回の写真がこれまでと異なる点は、2020年に、野村自身が東京から母親の故郷である沖縄に拠点を移して以降撮影した作品が多く収められている事だろう。無論、それまでも沖縄の地で撮影したことはあるが、日常生活の拠点をこの地に持ったことは少なからず作品撮影に影響していると思われる。なぜなら、風景の変化を日々経験することになり、それは見慣れた筈の景色が何かの拍子によそよそしく見えたり、あるいは身の回りの人々の生や死も短い距離で飛び込んでくるからだ。
さて、タイトルにあるmoon、月だが、それと対をなす太陽と比すと、月自体が光を発することはないし、輝くように見えるのも太陽のお陰で、つまり、太陽の光を反射(reflection)して輝く存在だ。この写真集のタイトルに月が選ばれた理由には、主体としての自身ではなくむしろ周りの状況でその表情が変化するさまざまな事象にこそ撮影対象の意味があったからだろう。
そもそもそのプロセスこそ違え写真の原理は、アナログもデジタルも光が無ければ像を作り出せないメディウムである。そして光は影を生むし、例えば絵画の起源もまた慕う人物の影をなぞったのが像であった。
また、写真ほど事後性の強いメディウムは他にないかもしれない。ブラウザーですぐにイメージが確認出来るデジタルカメラですら撮影し、プリントにして初めて自身も了解していないイメージに気付かされるからだ。それはまるで人の人生の歩みにも似て、過去の振り返り=reflectionを繰り返すことで、今の生き方を定めているからだ。
今回の作品もまた、言うまでもなく野村の周りの人物、風景に限らない事象がイメージ化されている。とは言え、それは野村自身の事でもあり、同時に、誰もがそれぞれに馳せるであろう、身に起こる事象への思いが重なるイメージでもあるのだ。
天野太郎
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2022年3月10日(木)〜4月3日(日)
火〜金 12:00〜19:00
土・日 12:00〜18:00
休廊:月曜日
会場:コミュニケーションギャラリーふげん社
〒153-0064 東京都目黒区下目黒5-3-12