野町和嘉氏 写真展「シベリア収容所1992」
それまで“鉄のカーテン”に仕切られ、厳格に管理されていた体制の崩壊によってあらゆる統制が緩み、国家の内実、内幕が白日のもとに晒された希有の機会であった。 未開の地シベリアは、帝政ロシアの時代から犯罪者や戦争捕虜などに強制労働を課す抑留の地でもあった。ソビエトの時代、囚人を使役する収容所産業が、国家建設に欠くことのできない基幹事業として位置づけられていた。第2次大戦後に多くの日本兵や民間人が抑留され、過酷な労働を強いられた苦い記憶もある。ペレストロイカが浸透しつつあったソビエト連邦の末期、政治犯はほぼいなくなっていたが、おびただしい数の刑事犯を収容し、労働力として使役する収容所産業は絶えることなく稼働していた。そこでは、強権政治がもたらす世相から脱落した弱者でもある受刑者たちの、重苦しくも、淡々と過ぎゆく日常を垣間見ることができた。
このたび世界は、ロシアによるウクライナ侵攻という凄惨な現実を突きつけられた。ウクライナから連れ去られた人々の一部は極東シベリアにまで強制移送される、とも報じられている。それが事実であるなら、私が30年前に垣間見た光景に、新たな要素が上書きされることになるのだろうか。
【野町 和嘉 写真展作品解説】
■OM SYSTEM GALLERY内にて開催※予約不要・参加無料
10月15日(土)14:00~15:00
スペシャルゲスト 佐伯 剛 氏(風の旅人)
10月22日(土)14:00~15:00
1946年高知県生まれ。杵島隆に師事した後、1971年にフリーの写真家となる。1972年のサハラ砂漠への旅をきっかけにアフリカを広く取材する。1980年代後半からは、過酷な風土を生き抜く人々の営みと信仰をテーマとして舞台を中近東、アジアに移し、長期の取材を続ける。2000年代以降は、アンデス、インド等を中心に取材。『サハラ』『ナイル』『メッカ巡礼』『チベット』など多くの写真集が国際共同出版される。東京、ローマ、ミラノ、台北ほかで『聖地巡礼』展を開催。土門拳賞、芸術選奨文部大臣新人賞などを受賞。2009年紫綬褒章受章。日本写真家協会会長。
休館日:10月18日(火)・19日(水)
OM SYSTEM PLAZA(旧 オリンパスプラザ東京)内