野口里佳氏 展覧会 「虹」
タカ・イシイギャラリーは、9月12日(火)から10月14日(土)まで、野口里佳の個展を開催いたします。野口は微視と巨視を行き来するような独自の視点、人間の謎に触れるような対象の選択、透明な色彩と詩情豊かな写真作品で国内外に知られ、写真の世界だけに留まらず現代美術の国際展にも数多く参加しています。タカ・イシイギャラリーでの2回目の個展となる本展では、近年の映像作品「光る海」と砂丘にて撮影した新しい写真作品約14点を発表いたします。
春の浜辺で海を眺め、海の向こうを想像していました。
海の向こうにも浜辺で海を眺めて、こちら側の世界を想像している人がいるかもしれません。
私の視線は果たして海の上をまっすぐに進むのか。視線にスピードがあるのなら、それは果たしてどのくらいなのか。私の視線と向こうの人の視線は海の上のどこかで交差するのか。
舳先に人の乗った船がゆっくりと目の前を横切っていきます。船の通ったところに波が立ち、海は白く光りました。
野口里佳
「光る海」(2021年/2023年)はコロナ禍の2021年に、野口が暮らす沖縄の浜辺を撮影した映像作品です。海の向こうに思いを馳せながら、野口は浜辺で起こる小さな出来事を記録していきます。パンデミックにより移動することが難しくなる中、旅を通してさまざまな被写体に出会ってきた野口の制作活動は大きく制限されてしまいました。しかし一方でその制約は、想像の力で世界を豊かにしようする彼女の意志を揺るぎないものにしました。見慣れたはずの日々の中に存在する未知の世界を、野口は静かに見つけ出そうとしています。
淡い青色の空と砂丘のコントラストを背景に、パラグライダーに興じる人たちを捉えた新作「虹」(2022年/2023年)は鳥取砂丘で撮影されました。特殊な化学繊維でできた翼が風をとらえ、飛ぶ力を持たない人間がひととき空を舞います。飛行中、本能からか着地に備えて恐る恐る斜め前に出された脚からは、経験したことのない身体感覚に戸惑う様子が見て取れます。静かに地上に着地し、新しい世界から帰還した人の眼差しはどのようなものでしょうか。
野口は今回の展覧会を「距離」についての展覧会だと語ります。海の向こうへの距離。ここから虹までの距離。遠く離れた別の惑星にたどり着いたかのような人々。近年は写真に加え、映像やドローイング、立体作品なども手がける野口の広がり続ける作品世界をぜひお楽しみください。
1971年大宮市(現さいたま市)生まれ。現在那覇市在住。1994年日本大学芸術学部写真学科卒業。大学在学中より写真作品の制作を始める。主な個展として、「不思議な力」東京都写真美術館(2022年)、「光は未来に届く」IZU PHOTO MUSEUM(静岡、2011年)、「太陽」モンギン・アートセンター(ソウル、2007年)、「星の色」DAADギャラリー(ベルリン、2006年)、「彼等 野口里佳」アイコンギャラリー(バーミンガム、2004年)、「飛ぶ夢を見た 野口里佳」原美術館(東京、2004年)などが挙げられる。主なグループ展として、「ふたつのまどか」DIC川村記念美術館(千葉、2020年)、シドニー・ビエンナーレ(2018年)、「The Living Years」ウォーカー・アート・センター(ミネアポリス、2012年)、横浜トリエンナーレ(2011年)、「光 松本陽子 / 野口里佳」国立新美術館(東京、2009年)、カーネギー・インターナショナル(ピッツバーグ、2008年)、シャルジャ・ビエンナーレ(2007年)、「夏の扉 – マイクロポップの時代」水戸芸術館現代美術ギャラリー(2007年)、「ムーヴィング・ピクチャーズ」ソロモンR.グッゲンハイム美術館(ニューヨーク、2002年)/ グッゲンハイム美術館ビルバオ館(2003年)、「写真の現在2:サイト – 場所と光景」東京国立近代美術館(2002年)、「ファクツ・オブ・ライフ:現代の日本のアート」ヘイワードギャラリー(ロンドン、2001年)、「スタンダード」直島コンテンポラリーアートミュージアム(現ベネッセアートサイト直島)(2001年)に参加している。
定休日: 日・月・祝祭日
会場: タカ・イシイギャラリー(complex665)