渡部雄吉氏 展覧会「渡部雄吉がとらえた北海道」

JCIIフォトサロンでは、来る2024年7月9日(火)から8月4日(日)まで、「―生誕100年―渡部雄吉がとらえた北海道」を開催します。
渡部雄吉(1924-1993)は、写真家・田村茂の助手を経て1950年にフリーとなり、『現代』『文藝春秋』『中央公論』などのグラビアページを中心に活躍する一方、1960年以降はエジプトやアフリカ、アラスカ、ヨーロッパなどへの海外取材を重ね、戦後フォトジャーナリズムの一翼を担い続けてきました。2011年にフランスで写真集にまとめられた「張り込み日記」は世界中で評判となり、日本でも2種類の写真集が発売されるなど、1993年に逝去後も彼の作品は高く評価されています。
本展では、渡部雄吉生誕100年を記念して、弊館所蔵の渡部雄吉コレクションより北海道をとらえた作品から、雌阿寒岳の硫黄採掘所で働く鉱夫たちを写した「ヤマの男たち」(1959年)、別海町の開拓地に生きる人々を写した「二つの開拓地」(1959年)、オホーツク海に面した街の漁民をとらえた「流氷の街」(1965年)を展示(72点、すべてモノクロ)いたします。
熱い蒸気と亜硫酸ガスの噴煙が立ち込める危険な場所で作業する鉱夫、自己資金を工面してパイロットファームに入植したが苦しい生活が続く開拓民、流氷が押し寄せる冬の間は漁に出ることができず氷切りの仕事をして生活を守る漁師など、どの作品も厳しい自然環境のなかで懸命に生きる人々の姿が写し出されています。本作はいずれも、当時の総合月刊誌に掲載されました。
今回、ネガを再調査し、未発表作を含む新しい構成(各シリーズ24点)でご覧いただきます。「真のドキュメントとは、問題の真実を探り出すことと、ヒューマンなまなざしで撮られていることが大切」(松本徳彦「コンタクト探検8 台風が来た 渡部雄吉」『アサヒカメラ』1992年8月号)と語っているように、渡部の作品は、現場の実情を伝えながらもまなざしは常に被写体の心情に向けられています。仲間や家族と支え合いながらひたむきに生きる人々の姿は、時代の記録であるとともに、私たちに普遍的価値を語りかけてきます。
渡部 雄吉(わたべ ゆうきち)
1924年、山形県酒田市に生まれる。1943年、東京光画社に入社し写真部員としてカメラマン生活に入る。1945年、陸軍に入隊し撮影班に配属されるも間もなく終戦。戦後は、田村茂の助手を経て1950年にフリーランスとなり、『中央公論』『文藝春秋』等の総合雑誌を中心に活躍。1960年よりエジプト、アフリカを半年間取材し、1963年には平凡社のグラフ誌『太陽』創刊号の特派カメラマンとしてアラスカのエスキモー村を取材。この後、欧州各地を巡った成果で多数の写真集を制作。1972年より1992年まで、日本全国の神楽を撮影。1984年から1986年に日本写真家協会副会長を務める。1992年、紫綬褒章受章。1993年8月8日逝去、享年69歳。
【主な受賞歴】
1950年 ウィーン世界青年平和写真展報道部門グランプリ受賞
1958年 「台風が来た」にて二科賞受賞
1974年 『大いなるエジプト』(平凡社、1973年)にて日本写真協会賞年度賞受賞
1989年 『神楽』(新潮社、1989年)にて日本写真協会賞年度賞と東川賞国内作家賞受賞
【主な著作、写真集】
1971年 『カタコトで世界を駈ける』(実業之日本社)
1979年 『アラスカ エスキモー』(朝日ソノラマ)
1985年 『エミール・ガレ―ガラスのなかの小宇宙』(朝日新聞社)
2011年 『A Criminal Investigation』(Éditions Xavier Barral)
2013年 『張り込み日記 Stakeout Diary』(roshin books)
2014年 『張り込み日記』(ナナロク社) ほか多数