畠山直哉氏 展覧会 「津波の木」
タカ・イシイギャラリーは、8月31日(土)から9月28日(土)まで、畠山直哉の個展「津波の木」を開催いたします。自然・都市・写真の関わり合いに主眼を置き緻密に作り上げられながら、豊かな詩情をもって鑑賞者に届けられる畠山の作品は、世界的に高い評価を得ています。2011年の東日本大震災における津波で実家と母親を亡くしてからは、故郷・陸前高田の変わりゆくさまを写真に収めてきました。タカ・イシイギャラリーでは8年ぶりの個展となる本展では、「津波の木」から10点、新作の「Kochi」から30点を展示いたします。
2018年から撮り続け2024年に写真集として結実した「津波の木」は、太平洋沿岸部に残された、津波の痕跡をとどめる樹木や風景を記録した作品群です。東日本大震災から6年が経った2017年、畠山は故郷・陸前高田を流れる気仙川上流の河原で一本のオニグルミの木に出会います。「半分の木」と畠山が呼ぶその木は、左半分に豊かに葉を茂らせながらも、右半分は津波が押し寄せた物体によって幹が傷つけられ、水分や養分が枝へ届かずに枯れていました。同様の木々を探す衝動に駆られた畠山は知人からの協力も得ながら東北地方を巡り、様々な形で震災の影響を受けた樹木に出会うとその姿を大判カメラで記録していきます。そこに写し出された「津波の木」たちは、時に不動の存在として崇められ、時に無分別に伐採され利用される、木々と人間の関係性へと私たちの意識を立ち返らせます。そしてまた、自立する木々の周囲には新たに建設された防潮堤や高速道路が垣間見え、経過した時間を描き出すとともに私達が持つ個々の記憶を喚起させるでしょう。
本展を構成するもう一つのシリーズとして、2021年から2022年にかけて高知県で撮影された「Kochi」より、津波避難タワーを被写体とした作品を新たに発表、展示いたします。同県の黒潮町では、南海トラフ地震による津波の高さが2011年に東北地方の沿岸地域を壊滅させた大津波の2倍となる30メートルと予想され、県内の各地では津波避難タワーと呼ばれる一時的な避難施設が建設されています。本展における「Kochi」シリーズの類型学的な作品構成は、東日本大震災以降に数々のタワー群が日常の生活環境に組み込まれる様相を浮かび上がらせています。畠山の写真は、それらが犠牲者を限りなく減らすための救済の場として屹立する一方で、その周囲の風景が圧倒的な作用によって失われてしまう時を静かに予告する姿を捉え、自然現象との向き合い方や、そこから発展する科学技術が私たちの未来を規定しうる可能性について思考を促します。
畠山直哉は1958年岩手県陸前高田市生まれ。筑波大学芸術専門学群にて大辻清司に師事。1984年に同大学院芸術研究科修士課程修了。以降東京を拠点に活動を行い、国内外の数々の個展・グループ展に参加。日本国内に散在する石灰石の鉱山と、石灰工場およびセメント工場の姿をとらえた写真集『ライム・ワークス』(シナジー幾何学、1996年)およびギャラリーNWハウスで開催された写真展「都市のマケット」で1997年第22回木村伊兵衛写真賞受賞。2001年第49回ヴェネチア・ビエンナーレに参加、第42回毎日芸術賞受賞。2012年、初期作から、東日本大震災後の故郷を収めた「陸前高田」まで、それまでの活動を振り返る大規模個展「Natural Stories」(東京都写真美術館)で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2012年第13回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の日本館に参加し金獅子賞を受賞。著書に『BLAST』(小学館、2013年)、『気仙川』(河出書房新社、2012年)、『陸前高田 2011-2014』(河出書房新社、2015年)など。作品は以下などのパブリック・コレクションに多数収蔵されている。テート(ロンドン)、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)、ヒューストン美術館、ヨーロッパ写真美術館(パリ)、スイス写真財団(ヴィンタートゥーア)、東京国立近代美術館、東京都写真美術館、国立国際美術館(大阪)。
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会期: 2024年8月31日(土) – 9月28日(土)
営業時間: 12:00 – 19:00
定休日: 日・月・祝祭日
会場: タカ・イシイギャラリー(complex665)
106-0032 東京都港区六本木6-5-24 complex665 3F